訪辺歩来

前書

 

 この度、知人の勧めによりこの様な場を設ける事となり、多少の気恥ずかしさはあるの ですが、

冒頭に一言、いい訳がましい事を喋らせて頂きます。

私がこの、店らしき物を作った当初の理由は自身の病を通じ、食の本来を皆さんと一緒に考えられればと、

思いついたのがきっかけでした。

 ですが、世を見れば病は蔓延するばかり、食を選ぶ事も叶わず、アレルギーに苦しむ子供さんや、若者は日々増えるばかりです。

 ですから、70歳になった今、自身の健康と病の治癒は叶ったものの、これでいいのか?という想いは、常日頃感じておりました。

 ですが、感じているという事と、行動するという事は全くの別物であり、動かなければ小さな身の回りの世界さえ変わらないという現実を、私は最近、再び考え始めたのです。

 そして今年に入り私は今一度自身にムチを入れ、残りの人生を皆さんとの一期一会に費やし、一人でも多くの方が、自分自身と、そしてそれに連なる命との日々を再考するきっかけになればと思い、再びこの様な活動を思い立ったのです。

力は微小です

変えられる事も僅かでしょう

ですが、食事は楽しみでもあるのです

小さな一席を設け

再び皆さんとの出会いに、心を尽くし

土からの頂き物を今日もお出しできるよう

今も日々、私は畑に立ち

そして野に分け入っております

 訪返歩来 主 川上信幸

 

 

訪返歩来のある風景

再びの雪です。

風の止んだ雪の日の朝は特別で、白く発光しているかの様な雪が周りの風景を一変させ、その身動きが取れない程の雪は、静かさの中に横たわります。

檜の風呂の良さは・・・

 

一刀彫のこまいぬはこの家の守り神です。

ご主人の手慰みで作られた二匹の「狛犬」の内の一匹です。もうは乞われて貰われていったので、今ではこの一匹で家を守っています。

 

暖をとるという言葉は、このストーブの横がよく似合うと思いますが

しめ縄は川上さん手作りの力作です。

カンジキは冬の必需品です。これがなければ・・・

雪に埋もれる訪辺歩来

 

訪辺歩来の食事

 

まずもって、健康な状態を意識することなく、日々の生活を送れるという幸せは、今や若者だけに与えられた特権の様にも見えます。ですが最も怖い病とは幼い子供の頃に作られた習慣であり、長い間に蓄積され、その芽を体の奥深くではぐくみ続ける病以前の状態をいうのかもしれません。ですが、私自身もそうであった様に、思いがあれば病との付き合いは可能であり、その足掛かりとしての食事は、日々の僅かな努力で変えることが出来るのです。

多分それはささやかな疑問から始まるのではないでしょうか?

例えば、今目の前にある100円の品物を自身で作るとして、本当に100円で作れるのか?作れるのならば、どうやったら出来るのか?それは本当に自身の納得出来る物なのか?そんなささやかな疑問が、子供さんや、家族の笑顔に繋がるのかもしれません。

ですから、私がお出しする食事は、私の今出来る精一杯であり、自身に対する問いかけでもあるのです。

  

山掛け蕎麦

  

 

訪辺歩来の山掛け蕎麦は特別なものではありません。

材料としてのそば粉や小麦粉、調味料としての塩、鰹節、醤油等も、あまり一般的でないにせよ買う事は可能です。

勿論、使用する自然薯も山に入る事をいとわなければ取る事も可能です。

ですが、一本の自然薯を探すために、道も無い険しい山に分け入り、それを掘り起こすという事がどんな事か知る人は少ないと思います。

又その自然薯が、肥沃な自然の山裾でどれ程長い時間をかけ成長し、どれ程の滋味をその内に隠し持っているかを確認できる人も又少ないのではないでしょうか。

確かに、現実においては自然薯もお金さえ厭わなければ買う事は出来ます。

ですが現実の自然の中で、農薬も肥料も関係なく、雨の恵みと、生物多様性の中で育まれた自然の自然薯をその土地で味わう事の出来る喜びは又、格別ではないでしょうか。

 

蕎麦は、新潟県産のそば粉及び関東地方の小麦粉を使用し、ザルソバには自然薯を練り込み、喉越しと、自然薯の風味をゆっくりと味わって頂きます

山掛けそばには、摩り下ろしたばかりの自然薯をたっぷりとかけ、その淡雪の様な山掛けは、腰のある蕎麦をその内に隠し、滋養に満ちた香りと粘りを口と鼻で味わって頂きます。

店主川上の作るツユと大山の清流に自生する山葵が、自然薯の風味をさらに引き立ててくれるとおもいます。 

 

最後に店主の思いとして最も味わって頂きたいのは、味にも現れる事のない安全性と、共生という名のもとに人を守る見えない自然の力である事だけは、付け加えさせていただきます。

 

以下に、訪辺歩来で使われる調味料の表示をさせて頂きます。

又更に安全性が高く、味わい深い商品をご存知の方は、お教え頂ければ幸いです。

 

砂糖 サトウキビ(種子島)

   阿波和三盆糖(徳島県)

黒糖(沖縄)

塩  瀬戸内の花藻塩(岡山県)

   三島灘の塩(長崎県)

   ブルーソルト(イラン)

   岩塩(ボリビア共和国)

醤油 杉樽仕込み(農薬不使用・香川県)杉樽仕込み(農薬不使用・島根県) 

  

掘起し作業

掘り起こしは時間にして20分。

但しこれは、熟練の職人が手掘りを行っての話で、普通の人であれば2時間以上、それも折る事なく掘るのは至難の業となります。

又、自然薯自体も一般に流通する2,3年物ではなく、長い年月をかけ、その場で何世代もの交代を経た貴重なものとなります。

   
なめこ蕎麦
  

この蕎麦につきましては、まず蕎麦その物よりも、掛けられる滑子についてお話しなければなりません。

使用される滑子は、大山の山波の中に隠れるように自生する天然の滑子となります。

その年により取る場所が変わる事もありますが、道なき道を片道3時間。

それも足場も不確かな急傾斜の山肌を探る様に登る事になります。

場所によっては45度の傾斜になる様な、そんな場所もあるようです。

ですが、そんな人も通わぬ山中にこそ、求める滑子はひっそりとその身を隠しているのです。

又、滑子は行けば必ずあるという物ではありません。

その年の気温や降雨量、それら予想出来ない気象条件により出来不出来は明らかで、数時間を掛けその目的の場所に着いたとしても、あるとは限らないのです。

自然は正直です。

現代においては、人の求めに対し妥協点を探りながら、或いは、完全に人の手で作り出すことによって、常にそれがあるように人を勘違いさせます。ですが、食べてみればそれは一目瞭然で、その香りの強さや粘り気は、口にした人にしか味わえない物だと思います。

そして当たり前の事ですがこの滑子蕎麦、季節限定となります。

ですから、その肉厚な滑子のぬめりと、それに絡む腰のある蕎麦の喉越しを全てのお客様にお伝えする事は出来ませんので、滑子の在庫が無い場合はご容赦ください。

 

滑子のお吸い物

 

これは、その山の香りを飲み込むかのような——そんな佇まいのお吸い物です。

滑子はまだ伸びきっていない、肉厚で、ぬめりの濃い物をご賞味頂きます。

濃厚としか言いようの無いその喉越しを、ゆっくりとご堪能下さい。

訪返歩来の 卵について 

      

まず母体となる烏骨鶏は以下の条件で育てられます。

 

建物は廃材を利用した簡素なものですが合板等は使用せず、古い木材及び木の板だけを使用しました。(ただし金網のみ被覆材を使用しています)

 

又その鳥小屋は、一般の生活圏から離れた山林の中に在り、四方を排水路に囲まれた地面に直接放し飼いをする、地飼で育てられています。

(排水路はゲリラ豪雨等から鳥小屋を守り乾燥を確保するため)

 

地面は藁及び乾燥草を厚く敷いた上に鳥を放し飼いにし、その鶏糞と適度な影等の相互作用により地面を発酵させ、鳥の腸内環境の整備に利用します。

 

発酵には落ち葉や炭も利用します。

(炭は太陽の紫外線を受け自ら音波を発生し、発酵に必要な菌を増殖させます。落ち葉は山林から集めてきた物を使用し、菌の採種に寄与します。

 

基本、地面の入れ替えはしません。発酵とその捕食がきちんと行われれば、匂いも無く、病気の発生も起こりにくい自然な菌との共生が営まれ、耐病性の高い健康な腸を持つ鶏になるからです。

 

又、与える水は、地下水を汲み上げ与えています。(保健所の検査を通した物)

 

餌は今のところ、地元産玄米と自家野菜(農薬、化学肥料、牛糞、鶏糞、不使用)を与えています。

(牛糞、鶏糞を使用しない理由は,判らない物は極力与えないという私達の判断からで,動物の食物に含まれる化学物質の濃縮と,その間接的な摂取を避けるためです)

 

尤も、先ほども申しました通り鳥は地面もついばむので,ミミズや小石、発酵した地面等もその食事のメニューとなります。

 

また今後は雛の腸内環境を整える為食事も一新する予定ですが、求める環境を整えるには、今しばらくかかりそうです。

 

唯、今最も力を入れているのが、鳥の生活環境にプラスチックやナイロン等の化学合成品を極力入れないという事です。環境ホルモンによる、人体への影響を出来る限り減らすため、無駄な足掻きかもしれませんがそのように心掛けています。

 

尚、当鶏舎では私たち自身のル—ルとして、鳥への化学薬品の投与及び一般飼料の使用を一切しておりません。

 

又、卵の保護膜である天然抗菌物質を守るため薬品による洗浄も行っておりません。ですから育成環境及び育成方にご賛同頂ける方のみの販売とさせて頂いております。

(卵の洗浄には大山の地下水を利用し、一個一個丁寧に手洗いを行っております)

 

 

最後に、今もって思い描く養鶏に近づけない現状ではありますが、これからも自身に疑いの目を向け、日々の学びの中で人の生活に関わっていきたいと思います。

尚、この鶏舎を作るにあたってご協力頂いた地域の皆様に、この場を借りてお礼を申し上げます。

本当にありがとうございました

 

烏骨鶏について  

  

烏骨鶏は、古来より

唯一の薬用鳥と言われており

現代に於いては、高栄養,低カロリー

病気予防等にも有用とされています。

 

烏骨鶏卵かけご飯

 

その日採れたばかりの烏骨鶏卵を、炊き立ての地元産、減農薬米にかけお召し上がり下さい。

味付けは、店主川上が本枯節を削り利尻昆布と合わせ作ったタレ、もしくは島根県産、杉樽仕込み(農薬不使用)醤油でご賞味ください。熱に膨らんだ米の香りと、艶のある黄身の濃厚さを楽しんで頂ければ幸いです。

尚、烏骨鶏は産む卵の数も少なく、時期によってはお客様にお出し出来ない事もあります。又唐変木では銅釜を使用しお客様のご来店に合わせお米を炊きますので、これにつきましても、事前のご予約のみとさせて頂きますのでご了承ください。

追記

一つここで付け加えさせてください。

この様な農業を行っていると、高い頻度で慣行農法を強く否定される方と出会う事があります。

ですが、私達は現在の農業に携わる方々に畏敬の念こそあれ、否定するような気持ちは全くない事だけはお伝えしておきます。

何故なら、かの人々は苦渋の選択と絶え間ない努力の果てに、辛く厳しい時代から、多くの人々に食料を確実に供給する実務を背負い、長い時間、人々を、そして継続の文化の一翼である土地を守って来られた方々だからです。

勿論、考えに相違があることは間違いありません。

ですがそれは、共に歩む事を否定するものでは無いのです。

 

 

水については今も迷う所が多い。

これが私達の本音であることに間違いはありません。

それは、単純に私達の勉強不足によるところが多いのかもしれませんが、一般的に言われるように.水道水を悪いもの、ミネラルウォーターや湧水を良いものとする考え方にはすぐには賛同出来ないのです。

勿論、我々が豆腐作りに使用する水は検定を受けた大山山麓の地下水であることは間違いありません。

ですが、その地下水でさえ我々は加熱消毒し、竹炭による浄化を行うのです。

何故なら、寄生虫や細菌の有無を無視する事は出来ませんし、検定を受けない自然水の使用も又在り得ないからです。

水道水はある意味、多様性を含んだ多くの人々を守るライフラインなのかもしれません。.

何故なら、莫大な量を前提とした簡易で安全な水の供給など、個人の力では不可能に思えるからです。

          

          

          

ここからは訪辺歩来敷地内に併設される

「豆腐屋はづき」の紹介となります。 

 

豆腐作り

私達の豆腐作りの朝は早く、それは3箱(一箱18丁)を作るにも、片づけを含め7時間以上かかる為で、早朝のお客さんの為に休むことなく作っても、これ以上の時間短縮は出来ません。ですから作業の終わりは深夜の1時から始めても朝の9時を切る事は無く、その後の豆腐のお渡しまで入れれば、あまり効率のいい仕事とは言えないのかもしれません。勿論もっと楽に作る方法はあるのでしょうが、私達の考える家族に食べさせたい食品という物を考えた時、この方法しか思いつかなかったのです。当然の事ながら豆腐作りのそれぞれの工程に、私達なりの理由がありますが、それは拘りではありません。それは只、目的を優先した結果そうなっただけなのです。

こうしてようやく皆様の前にお出しするこの豆腐ですが、私達の間では名前はありません。

それは、この豆腐が日々の食卓に出される只の食品の一つでしかなく、又そうであって欲しいという考えからです。

使用する大豆について

国産大豆の自給率は5~6パ—セントと言われ、国内で消費される大豆のその殆どがアメリカ産となります。私達が使用する大豆は、その国産大豆の中でも、この大山の山裾で育った旧大山町産のみを使用します。又、これとは別枠で私達自身の手で育成し、収穫した大豆も僅かですが使用します。(以下はその自作大豆の育成方法となります)

 

自作大豆の育成から収穫まで

 

大豆の収穫前から続けられる草刈は、大山町各所で一年を通じ行われ、その枯草は絶え間なく大豆の畝間やその株元に置かれていきます。勿論、この畑での作業は、枯草の散布ばかりではありません。豪雨を前提とした排水路の整備や、豆腐作りで作られるオカラのぼかし肥料の散布、そして豆の播種作業や手切りによる収穫及び指剥きによる選別作業等々多岐にわたり、その間この畑に草刈り機以外の機械が入る事は全くありません。当然、大変な労力を要する作業となりますが、私たちなりの意味があってこの様な作業となっています。因みにこの園場に於いて農薬及び化学肥料は20年以上使用ししておりません。

          

 

苦汁  

本豆腐におけるニガリは、岩塩(一億年前の)から

生成されたニガリと瀬戸の苦汁を使用しています。
岩塩由来の苦汁については、大気汚染等の無い時代

に作られた物であることが、使用の最大の理由です。
又、海水由来の苦汁につきましては、多少の懸案事項は

あるものの、ミネラルの有用性を優先し採用しました。
勿論、ニガリの調整の際に使用される水も、

大山山麓の地下水を使用し、その保存には日本製のガラス瓶を使用します。     


豆腐屋葉月で使用する水は、大山の厚い岩盤層を打ち抜いた、

地下70メ-トルの地下水を汲み上げ使用しています。
それこそ短くて20年、長ければ100年をかけ浸透し磨かれるという大山の地下水は、

大豆の発芽温度ぎりぎりの水温であるが故に浸水時間は長く、

その間ナノプラスチック等の流入を考慮に入れ、

竹炭のフィルタ―越しに大豆の浸水を行っています。


注)その多くがI型(アルカリ土類炭酸塩型)となる

大山山麓の水はO-Index≧2.0の「美味しい水」に類するものが多いとされています。

これは「デイサイト/火山噴出堆積物」が要因と言われますが、

大山に広がる手つかずの森林、特に広大なブナ林の影響も大きいと考えられます。
ですが、元々大山町の水は、

水としてはペットボトルの水さえも凌ぐ状態であり、

その意味でもこの地下水は貴重な物といえるかもしれません。



鉄釜

    
黒い鋳物の鉄釜を使うのには理由があります。

それはそれが黒い大型の鉄の鍋である事が大きく関わります。

素材としての鉄釜は、20℃以下でも、遠赤外線の波長を輻射しており、

一定の振動を与えると低温で旨みを抽出する効果が期待できるそうで、

遠赤外線の抗酸化作用(酸化防止)もそうですが、

その素材の内側にまで熱を穏やかに浸透させるその性質がとても必要だったのです。
但し、アルミやステンレスではこの波長領域の放射率は極めて少なく、私達の求める豆腐を
作るためにはこの様な鉄の鋳物の大釜が必要だったのです。

尚、蛇足ではありますが、この鉄の大釜の副産物として、

鉄分の補給が挙げられます。
現代においては、その調理器具の変遷や、

食習慣の変化により家庭では摂取しにくい栄養素として、

国が給食業務に組み込んでいる鉄分補給ですが

この鉄の大釜であれば、吸収のよい二価鉄の補給が容易らしく、

特に鉄分を必要とする女性においてはお勧めのようです。
特に最近注目されるコラーゲンは、その合成に鉄分は必須であり、

皮膚や髪、目、筋肉、血管、骨など、

人体のあらゆる部位に含まれるコラーゲンは

人にとって必須栄養素と云えるのではないでしょうか。

  

 

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 photo:soushi

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