訪辺歩来の食事
まずもって、健康な状態を意識することなく、日々の生活を送れるという幸せは、今や若者だけに与えられた特権の様にも見えます。ですが最も怖い病とは幼い子供の頃に作られた習慣であり、長い間に蓄積され、その芽を体の奥深くではぐくみ続ける病以前の状態をいうのかもしれません。ですが、私自身もそうであった様に、思いがあれば病との付き合いは可能であり、その足掛かりとしての食事は、日々の僅かな努力で変えることが出来るのです。
多分それはささやかな疑問から始まるのではないでしょうか?
例えば、今目の前にある100円の品物を自身で作るとして、本当に100円で作れるのか?作れるのならば、どうやったら出来るのか?それは本当に自身の納得出来る物なのか?そんなささやかな疑問が、子供さんや、家族の笑顔に繋がるのかもしれません。
ですから、私がお出しする食事は、私の今出来る精一杯であり、粉飾の無い努力の結果なのです。
■山掛け蕎麦
訪辺歩来の山掛け蕎麦は特別なものではありません。
材料としてのそば粉や小麦粉、調味料としての塩、鰹節、醤油等も、あまり一般的でないにせよ、買う事は可能です。
勿論、使用する自然薯も山に入る事をいとわなければ取る事も可能です。
ですが、一本の自然薯を探すために、道も無い険しい山に分け入り、それを掘り起こすという事がどんな事か知る人は少ないと思います。
又その自然薯が、肥沃な自然の山裾でどれ程長い時間をかけ成長し、どれ程の滋味をその内に隠し持っているかを確認できる人も又少ないのではないでしょうか。
確かに、現実においては自然薯もお金さえ厭わなければ買う事は出来ます。
ですが現実の自然の中で、農薬も肥料も関係なく、雨の恵みと、生物多様性の中で育まれた自然の自然薯をその土地で味わう事の出来る喜びは又、格別ではないでしょうか。
蕎麦は、新潟県産のそば粉及び関東地方の小麦粉を使用し、ザルソバには自然薯を練り込み、喉ごしと、自然薯の風味を微かに味わって頂きます
山掛けそばには、摩り下ろしたばかりの自然薯をたっぷりとかけ、滋養に満ちた粘りを口の中と鼻で味わってください。店主川上の作るツユが自然薯の風味をさらに引き立ててくれるとおもいます。
最後に店主の思いとして最も味わって頂きたいのは、味にも現れる事のない安全性と、共生という名のもとに人を守る見えない力である事だけは、付け加えさせていただきます。
以下に、訪辺歩来で使われる調味料の表示をさせて頂きます。
又更に安全性が高く、味わい深い商品をご存知の方は、お教え頂ければ幸いです。
砂糖 サトウキビ(種子島)
阿波和三盆糖(徳島県)
黒糖(沖縄)
塩 瀬戸内の花藻塩(岡山県)
三島灘の塩(長崎県)
ブルーソルト(イラン)
岩塩(ボリビア共和国)
醤油 杉樽仕込み(農薬不使用・香川県)
杉樽仕込み(農薬不使用・島根県)
■なめこ蕎麦
この蕎麦につきましては、まず蕎麦その物よりも、掛けられる滑子についてお話しなければなりません。
使用される滑子は大山の山波の中に隠れ潜む天然の滑子となります。
その年により取る場所が変わる事もありますが、道なき道を、それも足場も不確かな急傾斜の山肌を探る様に登る事に変りはありません。
場所によっては、45度の傾斜になる処もあるようです。
ですが、その人も通わぬ山中にこそ、求める滑子はひっそりとその身を隠し佇んでいるのです。
行けば必ずあるという物ではありません。
その年の気温や降雨量により出来不出来は明らかで、数時間を掛けその目的の場所に着いたとしても、あるとは限らないのです。
自然は正直なのです。
現代においては、人の求めに対し妥協点を探りながら、或いは、完全に人の手で作り出すことによって、常にそれがあるように人を勘違いさせます。ですが、食べてみればそれは一目瞭然で、その香りの強さや粘り気は、口にした人にしか味わえない一品だと思います。
ただし、河上はこうも考えているようです。
ス—パ—で売っている滑子も、川上が取って来るも滑子基本的に等価の物だと。
それに価値を付加し別の物の様に語るのは自分の考えとはそぐわないと。
ですが、そうは言っても彼の負担する時間と苦労は、並々ならぬ物で、それを金額という形に変えれば、このような金額になってしまうのも致し方ないように思われます。
いえむしろ時間と労力.、そして危険性を考えれば、この金額でも安すぎるのです。
人は生活をする為に働くのです。ですが、誰もがその労力に見合った対価を得られる訳ではないのです。
最後に、この川上の滑子蕎麦の滑子ですが、酸性雨を視野に入れ、自然の状態を再現する育成も始める予定です。結果が出るのは数年先でしょうが、又ご報告させて頂きます。
山羊は山野の草や、店主の作った農薬不使用の野菜を食べすくすくと育っております。
そのヤギの乳から作るチ-ズケ―キは中々ですので一度ご賞味を。